AGAの進行パターンの中でも、特に悩みを持つ人が多いのが、額の両サイドから後退していく「M字はげ」です。このM字はげに対し、「AGA治療薬はあまり効果がないのではないか」という声を聞くことがあります。これは、半分は正しく、半分は誤解と言えるでしょう。結論から言うと、M字はげに対してもAGA治療薬は効果を発揮します。しかし、頭頂部の薄毛に比べて、効果を実感しにくい、あるいは改善の度合いが緩やかである、という傾向があるのは事実です。なぜ、M字部分は効果が出にくいのでしょうか。その理由の一つとして、M字部分、つまり前頭部は、頭頂部に比べて、AGAの原因物質であるDHTを生成する5αリダクターゼ(特にⅡ型)が、もともと多く分布していることが挙げられます。つまり、AGAの影響をより強く受けやすい、いわば「激戦区」なのです。また、一般的に顔に近い部分の皮膚は、頭頂部に比べて血流が少ない傾向にあることも、薬の成分が届きにくい一因と考えられています。さらに、最も大きな要因が「治療開始のタイミング」です。M字はげは、初期段階では産毛が残っていますが、進行すると、毛を生み出す毛母細胞そのものが完全に活動を停止し、線維化(瘢痕化)してしまうことがあります。畑で例えるなら、土が完全にコンクリート化してしまった状態です。こうなってしまうと、いくら薬でDHTを抑えたり、血行を促進したりしても、髪を生やすことは極めて困難になります。つまり、「M字はげに治療薬は効果がない」のではなく、「進行しきってしまったM字はげには、効果が出にくい」というのが、より正確な表現なのです。逆に言えば、まだ産毛が残っているような初期から中期の段階で治療を開始すれば、M字部分の進行を食い止め、改善させることは十分に可能です。M字の変化に気づいたら、一刻も早く専門医に相談し、治療を開始すること。それが、M字はげとの戦いに勝利するための、唯一にして最大の戦略です。
M字はげにAGA治療は効果ない?進行度との関係