長男を産んで三ヶ月が経った頃、それは突然始まりました。シャンプーをするたびに、指に絡みつく髪の毛の束。乾いた髪を少し手ぐしでとかしただけで、ハラハラと抜け落ちる髪。そして、毎朝恐怖と共に確認する、お風呂の排水溝を覆い尽くす黒い塊。私は、鏡に映る自分の姿から目をそむけたい衝動に駆られました。生え際のあたりは地肌が透けて見え、もともと細かった髪はさらに元気がなくなり、ぺたんと頭に張り付いているようでした。日中は、愛しい息子の世話に追われ、自分のことなど構っている暇はありません。でも、ふと一人になった瞬間、言いようのない不安と悲しみが胸を締め付けました。「このまま、全部髪の毛がなくなってしまったらどうしよう」。夫に相談しても「みんなそうなるって言うし、大丈夫だよ」と軽く返され、その言葉にさえ苛立ちを覚えてしまう始末。誰にも理解されない孤独感の中で、私はどんどん塞ぎ込んでいきました。そんな時、同じ時期に出産した友人と会う機会がありました。お互いの近況報告もそこそこに、私が思い切って髪の悩みを打ち明けると、彼女は「わかる!私もだよ!」と、まるで我がことのように頷いてくれたのです。彼女もまた、毎日の抜け毛に怯え、帽子なしでは外出できないほど悩んでいました。一人じゃなかった。その事実だけで、固く凍っていた心が少しだけ溶けていくのを感じました。私たちは、お互いの悲惨な抜け毛写真を見せ合って笑い、おすすめの低刺激シャンプーや、手軽に作れる栄養満点のスープのレシピを交換しました。悩みを分かち合うことで、それはただの辛い経験ではなく、共に戦う仲間がいる「あるある話」に変わったのです。抜け毛が落ち着くのには、それから半年ほどの時間が必要でした。でも、あの日の友人の一言がなければ、私はもっと長く暗いトンネルの中にいたことでしょう。
排水溝を見るのが怖かった私の産後抜け毛体験記