若い頃から、私の自慢は豊かで艶のある黒髪でした。しかし、50歳を目前にしたある日のこと、いつものように髪をとかしていると、ブラシに絡みついた髪の毛の量に、思わず手が止まりました。気のせいだと思いたかった。でも、その日から、お風呂の排水溝、朝起きた時の枕元、部屋の隅、至る所で自分の抜け毛が目につくようになりました。そして何より、鏡に映る自分の姿が、日に日に変わっていくのが分かりました。頭頂部の分け目が、くっきりと一本の白い線のように見えるのです。ドライヤーでどんなに根元を立ち上げようとしても、髪は力なくぺたんと寝てしまい、地肌が透けて見える。あの瞬間から、私の心は重く沈み込んでいきました。美容院に行くのが億劫になり、友人との集まりでも、照明が明るい席は無意識に避けるようになりました。誰かが私の頭を見ているのではないか、そんな被害妄想に駆られ、人と目を合わせるのが怖くなりました。女性としての自信を、髪の毛と一緒くたに失っていくような感覚でした。高価な育毛シャンプーを試し、頭皮マッサージもやってみましたが、目に見える効果はなく、ただ焦りだけが募る毎日。そんな時、ふと、私は自分の体の声に全く耳を傾けていなかったことに気づきました。考えてみれば、ここ数年、夜中に何度も目が覚め、些細なことでイライラし、体は常に鉛のように重かった。髪の毛の変化は、そんな私の心と体が発していた、最後のSOSだったのかもしれません。そう気づいてから、私は戦うのをやめました。髪と戦うのではなく、自分自身と向き合おうと決めたのです。まずは、夜更かしをやめ、バランスの良い食事を心がけることから始めました。そして、勇気を出して婦人科のドアを叩きました。髪の変化は、私にとって、自分の体と人生を本気で見つめ直すための、辛くも尊い転換点となったのです。
私の髪が悲鳴を上げた更年期という転換点