AGA治療薬によって抜け毛が減り、髪のボリュームも戻ってくると、「もう大丈夫だろう」と自己判断で薬の服用をやめてしまう方がいます。しかし、この判断は、せっかく積み上げてきた努力を水泡に帰す行為に他なりません。AGA治療において、薬の服用をやめたらどうなるのか、その後の変化を正しく理解しておくことは、治療を成功させる上で極めて重要です。まず、大前提として理解しなければならないのは、現在のAGA治療薬は、AGAを「完治」させるものではない、ということです。これらの薬は、高血圧の薬が血圧を正常に保つように、AGAの「進行を抑制」し、症状をコントロールするためのものです。フィナステリドやデュタステリドは、AGAの原因物質であるDHTの生成を抑えていますが、服用をやめれば、体内の5αリダクターゼは再び活発に働き始め、DHTの生成が再開されます。つまり、AGAの原因が取り除かれたわけではないのです。服用を中止すると、個人差はありますが、通常は2ヶ月から半年ほどかけて、髪の状態はゆっくりと治療を始める前の状態へと逆戻りしていきます。薬によって守られていた毛根は、再びDHTの攻撃に晒され、ヘアサイクルは乱れ始めます。せっかく太く長く成長していた髪は、徐々に細く弱々しくなり、やがて抜け落ちていきます。そして、また薄毛が進行していくという、以前と同じ道を辿ることになるのです。では、一生薬を飲み続けなければならないのか、と不安になるかもしれませんが、それは医師との相談の上で判断すべきことです。ある程度髪の状態が改善・安定した後、医師の管理のもとで薬の量を調整したり、種類を変更したりといった選択肢も考えられます。重要なのは、決して自己判断で中断しないこと。AGA治療は、その特性を理解し、症状と上手く付き合っていくという長期的な視点が何よりも大切なのです。